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粉雪玄空に舞うノ巻 其の一

銀河が砕けてこぼれ散るかのように、粉雪が暗い空を舞い落ちてくる。
ときおり、風が吹きすぎると、粉雪も流されて、さながら冷たい彗星の尾のように夜空にたなびく。
だが、ふいに、圧倒的な質感が風よりも大量に空気を押しのけ、粉雪に渦をまかせた。
それは、次第に雪の塊となり、あるものの形をとりはじめた。
巨大な、四つ足の獣。
それが、まるで生きているかのごとく、悠然と歩を進める。
そのうちに、雪がほろほろとはがれ落ち、分厚い毛皮に包まれた正体があらわとなった。
「ぐぉぉ……」
野太いうなり声とともに前足が雪を振り落とし、長くしなやかな尾が風を打つ。
それは、一頭の虎であった。
とはいえ、人が動物園で見るような虎とは違う。
さながら山のように、周囲を圧する巨体は、全身が暴発寸前のエネルギーの塊だ。
しかし、断崖の上にやんわりと伏せた虎の姿は、不思議と静かであった。

すると、積もった雪を割って、濃い緑の葉が姿をあらわし、それがみるみるうちに小さな木に育ったかと思うと、ちらちらと銀青色の光を放ち始めた。
その光が巴旦杏の形に膨れていくにつれ、木は蕾をつけ、白い椿の花を開かせた。
だが、それだけではない。黄色い花心が米粒ほどの娘の姿に、むくむくと変化していくではないか。
巨虎の琥珀色の眸が見つめる前で、米粒ほどの人は、みるみる、十三歳ほどの少女となる。
髪に椿の花を飾った少女は、目の前の虎におびえる風もなく、すっと腰をかがめた。
「黄伯虎さま。ようこそいらせられました。私は瑤池よりの使い、蕎春花と申します」
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by tora2m | 2006-01-01 17:41 | 序章
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