粉雪玄空に舞うノ巻 其の二

「金母さまがおおせられますには」
蕎春花は語る。
すなわち、仙界にかくれもなき西王母の住まう瑤池には、ひともとの巨大な柱がある。
それは、天におおいなる枝をはる、大樹に似たものなのだが、その枝の間から、このほど天が欠け落ちる凶兆が相次いだ。
仙界においては周知のことだが、太古、天は女媧の手で修復された事があった。
その時に用いられたのが万顆(ばんか)の石なのだが、そのうちのいくばくかが、はずれ落ちたものらしい。もちろん、そのままにしておけるわけはなく、一刻もはやく、探してもとに戻さなくてはならぬ。
しかし、虎は、不満げに、その体を震わせた。
なにゆえ俺が、と言うのだろう。
「ですが、伯虎さま。金母さまのお立場も、お考えくださいませ。このようなこと、紫薇宮に知られてなりましょうか?」
西王母の統べる瑤池と、太上老君が権勢を誇る天上の紫薇宮には、いささか微妙な、力関係というものがあるらしい。天の修復など、紫薇宮側にまかせてしまえば良いというものでも、ないのだろう。
「ですから、ここは、黄家のお力にすがりたいのでございますよ」
一瞬、春花は、挑発するような笑みを口辺に浮かべた。
「天界のものは、地に落ちれば妖変するが習いではございませんか。これを退治してもとの石に戻しますには、武にも術にも通じた方でなくては」
虎は、獣にできる限りの「むすっ」とした表情を浮かべると、先をうながした。
「それぞれの石が落ちた先は、物見の達者がご案内いたしますゆえ、何とぞ、金母さまをお助けくださいますよう」
蕎春花がうやうやしく一侑するや、そのからだを包んでいた光がみるみるうちに強さを増し、青黒い空間に白い窓を押し広げていく。
虎はその場で体をたわめるや、
ごうっ
と大きく吼え、矢のように跳躍して光の窓に飛び込んでいった。
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by tora2m | 2006-01-07 16:52 | 序章
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